『狐のあしあと』(三浦哲郎著)を読了。

『狐のあしあと』(三浦哲郎)を読了。  

 このところ、気持ちを静かに保つために三浦哲郎の本を読んでいます。わたしは、この作家の本をかなり買いそろえているのにもかかわらず、きちんと向き合ったことがありませんでした。  

 ここにきて、はじめて出会った、と思います。   

 それにしてもなぜ、買いそろえていたのか。そのきっかけは高校時代の恩師、故・中内正臣先生の奥さまからのお手紙ではなかったかと思います。 「いま、三浦哲郎の本を読んでいます」というふうなことが書かれていたことがありました。そのとき、奥さまがさらりと名前を挙げられるこの作家に興味を持ちました。どんな作家なのだろう、と。

 しかし、本は購入しても、いっこうに読むまでには到りません。

 いまならわかります。出会いの時期を待っていたのです。

 気持ちを静かに保つために読む作家のなかに、井伏鱒二がいますが、この作家は三浦哲郎の師にあたる方でもあります。そのことを知ったのも最近でした。井伏鱒二を集中的に読みつづけていた流れのなかで 『師・井伏鱒二の思い出』に出会いました。この本はとてもいい本です(ただ、巻末にある解説は読んでいません。せっかくの井伏、三浦のお二人の間に誰も何も言うことはいらないと思ったからです。すべて蛇足になるはずです)。

 そこで、三浦哲郎という作家の文章にはじめて触れた。遅かったとは思いません。いま、出会えてよかったと思います。  

『狐のあしあと』のなかに、井伏鱒二が太宰治について言ったことばが紹介されています。これは、『師・井伏鱒二の思い出』のなかにもあります。わたしのとても好きな箇所です。

「太宰はよかったな。こんな晩、縁側の方から、今晩は…ってやってくるんだ。いいやつだった。生きてりゃよかったのにね。」    

 こんなに慈愛にみちた井伏鱒二の言葉を、受け取ることができ、わたしたちに伝えることをしてくれる三浦哲郎という作家に出会えてよかったと思います。